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「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」は、聞き慣れない病名かもしれませんが、男性不妊の原因のひとつとして比較的よく知られている状態です。精巣(睾丸)のまわりの静脈が、こぶのように拡張してしまいます。
血流がうっ滞することで陰嚢内の温度が上がり、精子をつくる環境に影響を及ぼすことがあると考えられていますが、精索静脈瘤が見つかったからといって、必ずしも不妊になるわけではありません。
本ページでは、精索静脈瘤とはどのような状態なのか、男性不妊とどう関係するのか、そしてどんなときに治療が検討されるのかを分かりやすく解説します。
まずは、精索静脈瘤がどのような病態なのか、基本的なしくみをやさしく整理します。
精索静脈瘤とは、陰嚢(いんのう)内の静脈が太く拡張してしまう状態を指します。通常、血液は心臓へ向かって流れていきますが、静脈内にある「逆流を防ぐための弁」がうまく機能しなくなると、血液が逆流したり、うっ滞したりしてしまいます。足に血管が浮き出る「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)」に近いイメージを持っていただけると分かりやすいかもしれません。
精索静脈瘤は、解剖学的な理由から左側に起こりやすいとされています。左側の精巣から伸びる静脈は、腎臓の静脈に対して直角に近い角度で合流するため、右側に比べて血液が逆流しやすくなっているからです。
もちろん右側に起こることもありますが、左右差があることは珍しくありません。また、見た目だけでは自己判断が難しい場合もあります。
単なる「血管のこぶ」が、なぜ男性不妊の原因になるのでしょうか。そこには、精子をつくる環境への影響が関わっています。
精巣は、体温よりも少し低い温度(約2〜3度低い)に保たれることで、正常に精子をつくることができます。しかし、精索静脈瘤によって血液がうっ滞すると、陰嚢内の温度が上昇してしまいます。さらに、血流が悪くなることで酸素不足や酸化ストレスが生じ、精巣機能全体へ悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
精巣の環境が悪化すると、精液検査の数値に影響が出ることがあります。具体的には、以下のような精液所見の悪化につながる場合があります。
近年では、見た目の数や動きだけでなく、「精子の質(精子DNAの損傷)」にも関与する可能性が話題になっています。精索静脈瘤による酸化ストレスが精子DNAにダメージを与え、それが受精率の低下や、受精後の胚(受精卵)の発育に影響するケースがあると考えられているため、総合的な視点での評価が求められます。
「精索静脈瘤がある」と言われると不安になるかもしれませんが、過度に心配しすぎる必要はありません。
精索静脈瘤は一般の男性でも10〜15%程度に見られるとされ、見つかった人全員に不妊の影響が出るわけではありません。静脈の拡張の程度には個人差があり、精索静脈瘤があっても自然妊娠に至っている方は多くいらっしゃいます。
治療が必要かどうかは、静脈のふくらみがあるという事実だけで決まるわけではありません。
これらを総合的に踏まえて考える必要があります。
触診や超音波検査で精索静脈瘤が見つかっても、精液所見が正常で、他に不妊の原因が考えられない場合は、すぐに治療介入しないこともあります。大切なのは「病変があるかどうか」だけでなく、「それが現在の生殖機能に悪影響を出しているか」を見極めることです。
自覚症状から精索静脈瘤に気づくことができるのか、主な特徴をまとめました。
症状がある場合、陰嚢周辺に「重だるさ」や「鈍い痛み」「違和感」を感じることがあります。特に、長時間の立ち仕事をした後や、夕方以降に症状を自覚しやすいという特徴があります。
進行すると、陰嚢の表面に血管がミミズ腫れのように浮き出て見えることがあります。また、触ったときに柔らかいこぶのようなものを感じる方もいます。しかし、軽度な場合は自己判断で見つけるのは非常に困難です。
実は、痛みなどの自覚症状がまったくなく、不妊治療の過程で初めて見つかるケースが非常に多くなっています。精液検査で異常を指摘され、泌尿器科や男性不妊外来を受診した結果、原因が精索静脈瘤だったと判明することは珍しくありません。
泌尿器科や男性不妊外来では、以下のような検査を組み合わせて診断を行います。
まずは問診で症状の有無を確認し、視診と触診を行います。精索静脈瘤は立った状態(立位)で静脈の拡張が分かりやすくなるため、お腹に力を入れてもらいながら確認することもあります。
触診だけでなく、超音波(エコー)検査を用いて詳細な評価を行うことが一般的です。静脈がどのくらい太くなっているか、血液の逆流が起きているかを確認し、重症度を判断するための重要な材料とします。
精索静脈瘤の診断において、精液検査は欠かせません。静脈の拡張が、実際に「精子濃度」や「運動率」にどの程度の影響を与えているかを確認することで、今後の治療方針が定まります。
精索静脈瘤が見つかったからといって、すべての方に治療(手術)が行われるわけではありません。以下のようなケースで治療が検討されます。
不妊症として悩んでおり、複数回の精液検査で精子の数や運動率に問題が見られ、その原因が精索静脈瘤によるものと推測される場合は、治療介入の目安となります。
不妊治療の目的に限らず、陰嚢の強い痛みや重だるさがあり、日常生活や仕事に支障をきたしている場合は、症状改善を目的として泌尿器科で治療が検討されます。
すぐに妊娠を目指したいのか、手術後の精液所見の改善を待つ時間的な余裕があるのかによっても方針は変わります。ご夫婦の希望や、体外受精(ART)のスケジュールとの兼ね合いを考慮して決定されます。
精索静脈瘤の治療は、おもに血液の逆流を止めるための手術療法が行われます。
治療の目的は、拡張して逆流している静脈を縛ったり切断したりして、血流のうっ滞を解消することです。現在では、再発率や合併症のリスクを下げるために、手術用顕微鏡を用いて丁寧に行う「顕微鏡下精索静脈瘤手術」が選ばれることが多くなっています。日帰り手術を行っている医療機関もあります。
精子は、精巣でつくられ始めてから成熟して射精されるまでに、約70〜80日ほどの時間がかかります。そのため、手術をしたからといって翌日に精液所見が良くなるわけではありません。術後の精液所見の改善を確認するには、数か月から半年ほどの単位で経過を見ていく必要があります。
手術を受けて改善を待つか、あるいはすぐに人工授精や体外受精・顕微授精などの生殖補助医療(ART)へステップアップするかは、ご夫婦の状況次第です。女性側の年齢や治療歴なども踏まえ、医師と相談しながら夫婦全体の治療計画を立てることが大切です。
手術を受けることで、将来的な妊娠の可能性はどのように変わるのでしょうか。
多くの場合、手術によって精子の数や運動率の改善が期待されます。また、精子DNAの損傷レベルが改善することで、受精卵の質に良い影響を与える可能性も指摘されています。ただし、改善の程度には個人差があり、全員が必ず劇的に良くなるわけではありません。
精液所見が良くなったとしても、それだけで妊娠が成立するとは限りません。女性側の要因、ご夫婦の年齢、これまでの妊活期間などによっても結果は大きく変わってきます。
手術後も精液所見が十分に改善しないケースや、実は別の男性不妊要因が隠れていたというケースもあります。その場合は、顕微授精などの次のステップへ進む判断が必要になることもあります。
もし精索静脈瘤が気になったり、精液検査で異常を指摘されたりした場合は、どこへ相談すればよいのでしょうか。
男性の生殖機能の専門家は泌尿器科医です。特に「男性不妊外来」や「生殖医療専門医」が在籍しているクリニック・病院であれば、不妊治療の観点から詳細な超音波検査や精液検査を行い、的確なアドバイスを受けることができます。
不妊は女性だけの問題ではありません。パートナーの女性が婦人科で治療を進めている場合でも、男性側が早めに泌尿器科で評価を受けることで、無駄な回り道を避け、ふたりにとって最適な治療方針を決めやすくなります。
受診する際は、以下の情報があるとスムーズです。
必ずではありません。精索静脈瘤があっても精液所見に問題がない場合や、すでに体外受精などで妊娠の見込みが高い場合などは、手術を見送ることもあります。現在の精液所見やご夫婦の状況を踏まえ、医師と必要性を確認することが大切です。
物理的に静脈が拡張し、弁が壊れてしまっている状態のため、基本的には自然治癒を期待することは難しいとされています。ただし、治療が必要かどうかは別問題ですので、定期的な経過観察となることもあります。
一律に顕微授精になるわけではありません。精液所見の程度によっては、自然妊娠や人工授精を目指せる場合もありますし、手術によって所見が改善すればステップダウンできる可能性もあります。総合的な判断が必要になります。
精索静脈瘤は、精巣まわりの静脈の血流が悪くなり、精子をつくる環境に影響することがある状態です。
男性不妊の原因のひとつとして比較的よくみられ、精子数や運動率、精子DNAの質に関係することがありますが、精索静脈瘤があれば必ず不妊になるわけではなく、治療が必要かどうかも一律ではありません。
大切なのは、ご自身の精液所見、自覚症状、これまでの妊活期間、そしてご夫婦の治療方針を踏まえて判断することです。気になるときは自己判断せず、泌尿器科や男性不妊外来で早めに相談することをおすすめします。
不妊治療や生殖補助医療に関する高度な専門知識と技術を持つ「日本生殖医学会認定生殖医療専門医」が常勤で在籍しているクリニック・病院の中から、治療の目的別に優れた病院・クリニック3院をご紹介します(2025年3月調査時点)。
2001年からの不妊治療による累計妊娠数は3万人以上(2025年4月調査時点)※1。チーム医療による総合力で、35歳未満の方の体外受精(融解胚移植)による妊娠率は53.4%※2(2024年度実績)と全国平均の48.6%※3よりも高い実績です。
不妊治療に取り組む患者の妊娠しやすい身体作りをサポートするため、専門薬剤師(ウィメンズ漢方)によるオンライン漢方相談を実施。医師によるタイミング療法の指導などと合わせることで、できるだけ自然に近い治療で子どもを授かることができるよう尽力しています。
男性不妊に特化した日本生殖医学会認定生殖医療専門医が在籍する泌尿器科クリニック。男性不妊治療である精索静脈瘤に対する顕微鏡下手術、無精子症に対する顕微鏡下精巣精子回収術(micro-TESE)などの日帰り手術も可能で、忙しい方でもスケジュールの調整がしやすくなっています。
※1参照元:足立病院「数字でわかる足立病院」https://www.adachi-hospital.com/numbers/
※2参照元:足立病院「体外受精(凍結融解胚移植)による35歳未満の妊娠率(2024年度実績)」https://www.adachi-hospital.com/infertility/achievements/
※3参照元:日本産婦人科学会「ART臨床実施成績データ2022(PDF)」https://www.jsog.or.jp/activity/art/2022_JSOG-ART.pdf