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精液検査では、精子の数や運動率だけでなく、精子の「形態」も評価されます。正常な形態をした精子の割合が低い状態は、一般に「奇形精子症(teratozoospermia)」と呼ばれます。
検査結果に「正常形態率3%」「正常形態率1%」などと記載されていると、「妊娠できないのではないか」「赤ちゃんへの影響はないのか」と不安になる方もいるでしょう。
しかし、正常形態率が低いからといって、それだけで自然妊娠ができない、あるいは顕微授精が必要と判断されるわけではありません。精子濃度や運動率などほかの精液所見に加え、女性側の年齢や卵巣機能、不妊期間なども含めて、夫婦全体の状態から治療方針を検討することが大切です。
奇形精子症とは、精液中に含まれる精子のうち、基準を満たす正常な形態の精子の割合が低い状態を指す言葉です。
精子は大きく「頭部」「中片部」「尾部」から構成されています。精子形態検査では、それぞれの大きさや形、構造などを顕微鏡で観察し、一定の基準に沿って正常な形態かどうかを評価します。
| 精子の部位 | 形態異常の例 |
|---|---|
| 頭部 | 頭部が大きい、小さい、細長い、形が不整など |
| 中片部 | 太い、曲がっている、付着位置に異常があるなど |
| 尾部 | 短い、曲がっている、複数あるなど |
ただし、精子の形態にはさまざまな個体差があり、専門的な基準に基づいて評価されます。見た目だけで正常・異常を自己判断できるものではありません。
WHO(世界保健機関)の精液検査マニュアル第6版を踏まえた基準では、正常精子形態率の下限参照値は4%とされています。
| 精液検査の項目 | 下限参照値 |
|---|---|
| 精液量 | 1.4mL |
| 精子濃度 | 1,600万/mL |
| 総精子数 | 3,900万/射精 |
| 総運動率 | 42% |
| 前進運動率 | 30% |
| 正常精子形態率 | 4% |
ここで注意したいのは、正常形態率4%は「妊娠できる・できない」を分ける数値ではないということです。
この参照値は、一定期間内に自然妊娠に至ったカップルの男性の精液データをもとに示された値です。そのため、「4%以上なら妊娠できる」「4%未満なら妊娠できない」という診断基準ではありません。
正常形態率4%の考え方
従来は、正常精子形態率が4%未満の場合を「奇形精子症」と分類する考え方が広く用いられてきました。
一方、WHO第6版では、精子濃度・運動率・形態について、一定の数値を下回ったら一律に特定の診断名を付けるという従来の分類基準そのものは示されていません。
現在も臨床上、「正常形態率4%未満」を奇形精子症と呼ぶ場合がありますが、正常形態率だけで妊孕性や治療方法を判断するものではないことを理解しておきましょう。
精子の形態は妊孕性を評価する要素の一つですが、正常形態率だけから妊娠できる可能性を判断することはできません。
精液検査では、正常形態率のほかにも精子濃度や総精子数、運動率、前進運動率など複数の項目を確認します。
例えば、正常形態率が低くても、十分な数の精子があり運動率も保たれているケースと、精子数・運動率・正常形態率のすべてが低下しているケースでは、状態が異なります。
そのため、「正常形態率2%だから自然妊娠はできない」「奇形精子症だから顕微授精が必要」と数値だけで判断することはできません。
| 検査項目 | 主に確認するもの |
|---|---|
| 精子濃度 | 精液1mLあたりに含まれる精子の数 |
| 総精子数 | 1回の射精で排出される精子の総数 |
| 運動率 | 動いている精子の割合 |
| 前進運動率 | 前方へ進んでいる精子の割合 |
| 正常形態率 | 基準を満たす形態の精子の割合 |
精液検査の結果は、一つの項目だけを見るのではなく、複数の項目を組み合わせて評価することが重要です。
「奇形精子症」という名称から、「精子の形が正常ではないと、赤ちゃんにも形態異常が起こるのではないか」と心配する方もいるかもしれません。
しかし、精液検査で確認する「精子の形態」と、精子の染色体や遺伝子の状態は同じものではありません。通常の精子形態検査では、顕微鏡で精子の頭部・中片部・尾部などの形を評価します。一方、染色体や遺伝子、精子DNA断片化などは別の検査で評価されます。
したがって、正常形態率が低いという結果だけから、精子の染色体・遺伝子に異常がある、あるいは生まれてくる子どもに異常が起こると判断することはできません。
ただし、特定の形態異常がほぼすべての精子にみられる場合や、精子数が著しく少ない場合などでは、遺伝学的な要因を含めて詳しい検査が必要になることがあります。気になる場合は男性不妊を専門とする医師へ相談しましょう。
正常形態率が低くなる背景には、さまざまな要因が考えられます。ただし、精液検査で異常がみられても原因を明確に特定できないケースもあります。
精索静脈瘤とは、精巣から心臓へ戻る静脈の血液が逆流することなどによって、陰嚢内の静脈が拡張する病気です。男性不妊の原因の一つとして知られています。
精索静脈瘤によって精巣周囲の温度が上昇するなどして、精子をつくる機能に影響し、精子数・運動率・形態などの精液所見が低下する可能性があります。
精索静脈瘤があり、精液所見にも異常がみられる場合には、状態に応じて手術が検討されることがあります。
精巣で精子をつくる機能が低下していることで、正常な精子を十分につくれなくなる場合があります。
造精機能に問題がある場合には、正常形態率だけでなく、精子濃度や運動率など複数の精液所見に異常がみられることもあります。
男性の精子形成には、視床下部・下垂体・精巣などから分泌されるホルモンが関係しています。ホルモン分泌に異常があると、精子をつくる機能が低下することがあります。
また、重度の男性不妊では染色体異常や遺伝的な要因が関係している場合もあるため、精子数などほかの検査結果も踏まえ、必要に応じて血液検査や遺伝学的検査が行われます。
男性の妊孕性には、生活習慣も関係すると考えられています。
特に、肥満、運動不足、喫煙、多量の飲酒などは、精子の質の低下と関連することが報告されています。
これらに当てはまる場合は、健康管理の一環として生活習慣を見直すことも大切です。
ただし、「特定の食品を食べれば正常形態率が上がる」「特定の生活習慣だけで奇形精子症が治る」とは限りません。精液所見に異常がみられる場合は、生活改善だけに頼らず、原因となる病気がないか医療機関で確認することが重要です。
奇形精子症を評価する基本的な検査が精液検査です。
精液検査では正常形態率だけを見るのではなく、精液量、精子濃度、総精子数、運動率、前進運動率などをまとめて確認します。
WHO第6版をもとにした下限参照値は、妊娠できるかどうかを分ける診断基準ではありません。数値を下回っていたとしても、それだけで不妊と判断されるわけではないことに注意しましょう。
精液の状態は常に一定ではありません。禁欲期間や採取方法、体調などによる個人内変動に加えて、検査方法による違いが生じる場合もあります。
そのため、精液検査で異常がみられた場合は、必要に応じて再検査を行い、複数回の結果をもとに評価します。
一度正常形態率が低かったからといって、「自分は奇形精子症だから妊娠できない」と決めつける必要はありません。
精液検査に異常がある場合には、必要に応じて男性不妊を専門とする泌尿器科で、原因を詳しく調べます。
検査内容は状態によって異なりますが、以下のような検査が行われることがあります。
男性不妊には精索静脈瘤やホルモン異常など、治療できる原因が隠れていることもあります。精液検査の数値だけを見るのではなく、背景にある原因を確認することが大切です。
奇形精子症に対して、「正常形態率を上げること」だけを目的とした一律の治療を行うわけではありません。原因となる病気がある場合にはその治療を行い、原因が明確ではない場合には生活習慣の見直しなどを行いながら、夫婦の状況に応じた不妊治療を検討します。
精索静脈瘤など、精液所見に影響していると考えられる病気が見つかった場合には、原因に応じた治療を検討します。
精索静脈瘤では、精液所見に異常があり男性不妊の原因と考えられる場合に、手術が選択肢となることがあります。治療によって精子濃度や運動率、正常形態率などが改善する例も報告されていますが、すべての人で改善するとは限りません。
男性不妊では、肥満、運動不足、喫煙、多量の飲酒などが精子の質の低下と関連するとされています。
そのため、以下のような生活習慣の見直しが勧められることがあります。
生活習慣を整えることは健康維持の面でも重要ですが、正常形態率が必ず改善することを保証するものではありません。
精子の質を改善する目的で、ビタミンや抗酸化成分などを含むサプリメントを検討する方もいるでしょう。
酸化ストレスが男性不妊に関係する可能性は指摘されていますが、抗酸化療法によって妊娠率や精液所見が改善するかについては研究結果が一致しておらず、使用する成分や量、治療方法についても明確な結論は出ていません。
そのため、自己判断でサプリメントだけを続けるのではなく、まず男性不妊の原因となる病気がないか確認することが重要です。
奇形精子症と指摘された場合でも、正常形態率だけを見て不妊治療の方法を決定するわけではありません。
治療方針を決める際には、男性側の精液検査だけでなく、女性側の年齢や卵巣予備能、卵管の状態、不妊期間、これまでの治療歴などを含めて総合的に判断します。
正常形態率が低いという理由だけで、直ちに自然妊娠が難しいと判断されるわけではありません。
精子濃度や運動率が保たれている場合などでは、女性側の年齢や検査結果、不妊期間なども踏まえて、タイミング法から治療を開始する場合があります。
人工授精は、採取した精液から運動性の良い精子を処理・調整し、排卵時期に合わせて子宮内へ注入する方法です。
人工授精を行うかどうかも、正常形態率だけではなく、精子濃度や運動率、処理後に得られる運動精子数などを踏まえて判断します。
精液所見が大きく低下している場合や、人工授精を続けても妊娠に至らない場合、女性側の年齢などから治療を急いだ方がよい場合には、体外受精や顕微授精が検討されます。
顕微授精(ICSI)は、選択した1個の精子を細い針で卵子の中へ直接注入して受精を図る方法です。
ただし、「奇形精子症と診断されたら必ず顕微授精」というわけではありません。正常形態率だけではなく、精液所見全体と夫婦双方の状況を確認したうえで治療方法を検討します。
正常形態率1%という結果だけで、妊娠できないと判断することはできません。
「正常形態率1%=妊娠する確率が1%」という意味でもありません。妊娠の可能性は、精子濃度や運動率、女性側の年齢や妊孕性、不妊期間など多くの要因に左右されます。
まずは精液検査全体の結果を確認し、必要に応じて再検査や男性不妊の原因検索を受けましょう。
正常形態率0%という結果が出た場合でも、その結果だけから妊娠が不可能と断定することはできません。
精液検査には変動があり、形態評価にも専門的な判断が必要です。再検査を含めて状態を確認し、どのような形態異常がみられているのか、精子数や運動率はどうかなどを総合的に評価する必要があります。
特定の形態異常がほぼすべての精子に認められる場合などは、通常の「正常形態率が低い」という状態とは異なることがあるため、男性不妊を専門とする医師に相談してください。
改善できるかどうかは原因によって異なります。
精索静脈瘤など治療可能な原因が見つかるケースもあれば、明確な原因を特定できないケースもあります。また、肥満、運動不足、喫煙、多量の飲酒などがある場合には、生活習慣を見直すことが勧められます。
ただし、特定の治療や生活改善によって必ず正常形態率が上がるわけではありません。数値そのものを上げることだけを目的とせず、妊娠につながる治療方針を夫婦で検討することが重要です。
通常の精液検査で評価する精子の「形態」と、染色体や遺伝子の状態は別のものです。
そのため、正常形態率が低いという結果だけから、子どもに先天的な異常が起こると判断することはできません。
精子数が著しく少ない場合や、特定の重度な形態異常が疑われる場合などには、必要に応じて染色体検査や遺伝学的検査が検討されることがあります。心配な場合は医師へ相談しましょう。
不妊治療を行っている産婦人科や生殖医療施設で精液検査を受けることができます。
精液検査に異常がみられた場合や、精索静脈瘤など男性側の原因が疑われる場合には、男性不妊を専門とする泌尿器科で詳しい検査を受けることも重要です。
不妊症は女性だけ、男性だけの問題として考えるのではなく、夫婦双方の状態を確認しながら治療方針を決めていきます。
奇形精子症とは、正常な形態をした精子の割合が低い状態を指します。WHO第6版を踏まえた基準では正常精子形態率の下限参照値として4%が示されていますが、4%未満だから妊娠できないという意味ではありません。
精液検査の結果だけを見て必要以上に不安になるのではなく、夫婦双方の検査結果を確認したうえで、適切な治療について医師と相談することが大切です。
また、精子の数ではなく運動率が低い場合については、精子無力症とは?運動率が低い原因と治療法もあわせてご覧ください。
不妊治療や生殖補助医療に関する高度な専門知識と技術を持つ「日本生殖医学会認定生殖医療専門医」が常勤で在籍しているクリニック・病院の中から、治療の目的別に優れた病院・クリニック3院をご紹介します(2025年3月調査時点)。
体外受精を含め、専門医の体制や具体的な治療実績を確認しながら、本格的に不妊治療を進めたい方に向いています。
不妊治療だけでなく、体調や生活習慣、漢方なども含めて妊娠に向けた身体づくりを相談したい方に向いています。
男性側の不妊原因を詳しく調べたい方や、検査だけでなく手術を含めた男性不妊治療まで相談したい方に向いています。
※1参照元:足立病院「数字でわかる足立病院」https://www.adachi-hospital.com/numbers/
※2参照元:足立病院「体外受精(凍結融解胚移植)による35歳未満の妊娠率(2024年度実績)」https://www.adachi-hospital.com/infertility/achievements/
※3参照元:日本産婦人科学会「ART臨床実施成績データ2022(PDF)」https://www.jsog.or.jp/activity/art/2022_JSOG-ART.pdf